はつ恋

「はつ恋」


まだあげ初めし前髪の


林檎のもとに見えし時


前にさしたる花櫛(はなぐし)の


花ある君と思ひけり


やさしく白き手をのべて


林檎を我に与へしは


薄くれないの秋の実の


人こひ初めしはじめなり


今朝、義母が玄関先に置いていってくれた真っ赤なりんごを持ちながら
台所で、上の歌を朗唱して感傷にひたっていると
夫が二階から降りて来て
「なんだその歌?」
とたずねてきた。
「うそーあんた知らんのん
こんな有名な歌
島崎藤村の はつ恋 やんか!」
と言うと
冷蔵庫を開けながら
「知るわけないやん。そんなもん」
と言った。
そんなもん? そ、そ、そ、そ、 そんなもんて。
何も言い返せずに、りんごを食べた。

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